MTF曲線の読み方|軸・線の意味とレンズ比較の注意点

レンズと曲線のモチーフでMTF曲線の読み方を表した記事イメージ

レンズと曲線のモチーフでMTF曲線の読み方を表した記事イメージ

レンズの仕様表にあるMTF曲線は、模様の明暗差をどれだけ保って写せるかを示すグラフです。写真用レンズのカタログでは、画面の中央から周辺へ移るにつれて、その性能がどう変わるかを読むために使われます。

読み方の順番は、横軸を確認し、凡例で線を選び、同じ条件の値を比べること。線が高いほど、その条件ではコントラストをよく保てます。ただし、一本の線だけでレンズの総合点が決まるわけではありません。

ここでは写真用レンズのカタログを中心に、説明用のグラフで読み取りを練習します。

最初に、横軸が何を表すか確認する

MTF(Modulation Transfer Function/変調伝達関数)という名前でも、グラフの横軸は同じとは限りません。

ニコンのMTF解説では、横軸は像高(画面中心からの距離)です。左端の0 mmが中心で、右へ進むほど周辺の位置を見ています。「距離」といっても、カメラから被写体までの距離ではありません。

一方、夏目光学のMTF解説は、横軸に空間周波数をとる図を説明しています。空間周波数とは、模様の細かさを表す量です。

横軸の表示 右へ進むと変わるもの 読み取ること
像高、画面中心からの距離、mm 画面内の位置 中央と周辺でどう変わるか
空間周波数、lp/mmなど 模様の細かさ 細かくなるほど明暗差をどれだけ保てるか

以下では、写真用レンズでよく見る横軸が像高の図を扱います。別の図を読むときも、線の形を見る前に軸の名前を確認すると混乱しません。

縦軸はコントラストを保てる割合

縦軸のMTFは、ある細かさの模様について、元のコントラストに対して像のコントラストがどれだけ残ったかを表します。夏目光学の説明では、出力コントラストを入力コントラストで割った比です。

たとえば、入力を0.50、出力を0.40と置くと、0.40 ÷ 0.50 = 0.80になります。元の明暗差に対して8割を保った、という読み方です。これは比の意味を示す仮の数値で、実写真や製品を測定した結果ではありません。

0.8を「画質80点」と読むと、比較に必要な条件が抜け落ちます。どの細かさ、画面のどの位置、どの向きの模様なのかとセットで読む値です。写真全体の明暗の印象については、写真のコントラストの解説で扱っています。

10本・30本と、S・Mを読み分ける

グラフに何本もの線があるのは、主に模様の細かさと向きを分けているためです。色や線種を覚える前に、その図の凡例を見てください。

10本/mmと30本/mmは、見る模様の細かさが違う

タムロンのMTF解説では、白黒を一組にしたラインペアの数を10本/mmと30本/mmに固定し、位置による変化を表示しています。lp/mmは、1 mm当たりのラインペア数という意味です。

表示例 相対的な模様の細かさ 読むときの役割
10本/mm 粗い模様 比較的大きな模様の明暗差を保つ傾向
30本/mm 細かい模様 より細かな模様の明暗差を保つ傾向

30本/mmの線が高いことは、細部の再現性を考える材料になります。ただし、30がレンズの画素数を表すわけではありません。また、ここでの10と30はよく使われる表示例であり、すべての図に共通する固定ルールではありません。

S・Mは、画面内の方向の違い

ニコンでは、S(サジタル)が放射方向、M(メリジオナル)が同心円方向です。ここではカタログの模様の向きとして、画面の中心から外へ伸びる方向と、中心の周りの円に沿う方向を区別します。

画面中心から外へ向かうS方向と、中心の周りの円に沿うM方向の模式図

ニコンの方向の定義を基に作成した生成模式図です。測定装置の走査方向や光の進み方を表す図ではありません。

同じ位置・同じ細かさでSとMが離れていれば、向きによってコントラストの再現に差があると読めます。2本が近い場合はその条件での方向差が小さいと読めますが、両方の値が低いこともあります。線同士の近さと、線の高さは別に見る必要があります。

メーカーによっては記号も違います。ソニーのDT 50mm F1.8 SAMの説明では、放射状をR、同心円状をTと表しています。実線・破線や色の対応を、別の製品の図へそのまま当てはめないようにしましょう。

説明用のグラフを一緒に読む

ここでは、読み方の練習のために用意した仮想の数値を使います。特定のレンズの測定値・設計値・公式グラフの写しではありません。横軸は0〜20 mmの像高、縦軸はMTFです。

説明用のMTFグラフで像高15mmの4本の線を読む例。値は0.90、0.85、0.71、0.61

読み方の練習用に筆者が設定した数値を結んだグラフです。色と線種はこの例の凡例であり、メーカー共通の表記ではありません。

凡例を「10本/mm・S」「10本/mm・M」「30本/mm・S」「30本/mm・M」の4本に分けます。像高15 mmの位置で縦に見ていくと、次の値になります。

像高15 mmで読む線 説明用の値
10本/mm・S 0.90
10本/mm・M 0.85
30本/mm・S 0.71
30本/mm・M 0.61

この例では、同じ15 mmの位置でも、細かな模様を表す30本/mmの値のほうが低くなっています。また、30本/mmではSとMの差が0.10あります。ここから分かるのは、この位置・細かさでの方向差です。

位置による変化を見るなら、一本の線を横に追います。たとえば30本/mm・Sは中心で0.90、像高15 mmで0.71なので、同じ向き・同じ細かさでも周辺に向かうと値が下がる例だと読めます。

別のレンズと比較するときも、片方の10本/mm・中心と、もう片方の30本/mm・周辺を比べては条件がそろいません。先に見る線と位置を決めるのが、読み違いを防ぐ近道です。

レンズを比べる前に、条件をそろえる

凡例が読めても、異なる条件のグラフを横に並べるだけでは比較できません。同じメーカーの図でも、焦点距離や絞りが違えば、線の形が変わり得ます。

公式資料で確認できる表示例には、次の違いがあります。

公式資料の例 記載されている条件・表記 読む前に気を付ける点
ニコンのMTF解説 絞り開放、10/30本、S/M。NIKKOR Zは歪曲補正後の像高 絞ったときの性能や補正前の位置と混同しない
ソニー DT 50mm F1.8 SAM 開放/F8、10/30本、R/T 絞りと方向を区別して線を選ぶ
Sigma 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM 波動光学的MTFと幾何光学的MTFを区別して掲載 計算の前提が違う図を同じ条件として扱わない

表は、確認したページの例です。メーカーの全製品が同じ形式であるという意味ではありません。

比較時には、次の項目を図の説明や製品ページで確認します。

確認項目 そろえる・調べる内容
焦点距離・絞り ズームの広角側と望遠側、開放と絞った状態を分ける
空間周波数・方向 同じ本数と対応する方向の線を比べる
像高・対応する画面範囲 同じmmの位置か、各画面の端かを区別する
データの作り方 計算値か実測値か、計算の前提が記載されているか
撮影距離・補正条件 条件が明記されているか。記載がなければ同一条件と決めつけない

特にメーカーをまたぐ比較では、条件が不明なまま数値の順位を付けないほうがよいでしょう。曲線の「形」だけを見比べても、前提が違う影響を取り除けるわけではありません。各図が示す条件内の傾向を読み、候補を絞る材料として使います。

ボケや逆光の描写は、作例で確認する

ニコンは、ボケや色にじみなどMTFだけでは判断できない項目を挙げています。タムロンも、MTFだけで選ばず作例や用途と合わせて検討するよう説明しています。

知りたいこと 確認する材料
中央・周辺で細部の再現がどう変わるか 条件を確認したMTF曲線
背景のボケが好みに合うか 被写体と背景の距離、絞りを確認できる作例
強い光源が入ったときの見え方 光源の位置や条件が分かる逆光の作例
自分の撮りたい場面に合うか 撮影条件をそろえた実写と、必要な機能・操作性

SとMが近いという理由だけで、ボケが美しいと断定することも避けたいところです。ピントが合った部分の明暗差を評価する図から、背景の好みまで一度に決めることはできません。

また、現像で輪郭を強調するシャープネスによって、写真の見かけのくっきり感も変わります。レンズ単体のカタログMTFを読むときは、その後の画像処理まで含む評価と区別してください。写真を見て「くっきりしている」と感じる理由を整理したい場合は、シャープネスとピント・解像感の違いも参考になります。

候補のレンズの図を開いたら、横軸と凡例を確かめ、自分が見たい位置の線を追ってみてください。そのうえで、グラフが答えられない疑問を作例で確認すると、仕様表と写真をそれぞれの役割で使えます。

参考資料

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