カメラのAFはどうピントを合わせる?画像処理と制御フローを技術解説

カメラのセンサー、AF演算、フォーカスレンズ駆動の連携イメージ

カメラのセンサー、AF演算、フォーカスレンズ駆動の連携イメージ

カメラのAF(オートフォーカス)は、撮影後の画像をシャープに加工する機能ではありません。センサー信号からピントのずれを測り、フォーカスレンズ(ピント合わせのためにレンズ内で移動する光学群)を動かし、もう一度測る。この処理を合焦するまで繰り返す制御システムです。

処理を大きく分けると、次の4段階になります。

  1. 画面内のどこへ合わせるか決める
  2. その領域でピントのずれを測る
  3. 測定結果からレンズの移動方向と量を決める
  4. レンズを動かして再測定し、停止または追従する

以前の記事「オートフォーカスの仕組み解説|カメラとスマホでは何が違う?」では、位相差AF、コントラストAF、像面位相差AFの概要を扱いました。本記事ではその一段内側に入り、センサーから得た情報がレンズ駆動へ変わるまでを、ルールベース処理(人が定めた評価式・閾値・制御則に従う処理)を中心に整理します。

メーカーごとに実装は異なり、評価式や制御係数の多くは公開されていません。以下は、メーカー公式資料と公開研究から一般化できる処理モデルです。特定機種が同じ計算を行っているという意味ではありません。

AFは「どこ」「どれだけ」「どう動かす」を分けると理解しやすい

AFを理解するときは、一つの巨大な機能として見るより、三つの問いに分けると整理しやすくなります。

問い 主な処理 出力
どこへ合わせるか AFポイント、ゾーン、被写体候補の選択 ROI(評価対象領域)
どれだけずれているか 位相差またはコントラストの評価 デフォーカス量、方向、信頼度
どう動かすか レンズ位置、駆動特性、過去の測定値を使った制御 モーターの移動量と速度

ROI(Region of Interest:処理対象として切り出す領域)は、ユーザーが指定した1点の場合もあれば、ゾーン内からカメラが選ぶ場合もあります。ここで対象領域を間違えると、測距計算が正しくても意図した被写体には合いません。

NikonのAFシステム解説も、対象の検知、距離の把握、光学系の駆動という順でAFを説明しています。AF性能はセンサー方式だけでは決まらず、領域選択、演算、レンズ通信、モーター制御を含むシステム全体で決まります。

AF全体の処理フロー

シャッターボタンを半押しした後の一般的な流れは、次のように表せます。

  1. 撮像またはAF用センサーから信号を取得する
  2. AFモードに従ってROIを決める
  3. ノイズや明るさを考慮し、測距に使える特徴を抽出する
  4. 位相差またはコントラストからピント評価値を計算する
  5. 結果の信頼度が低ければ、領域変更やレンズ探索を行う
  6. レンズの目標位置、移動方向、速度を決める
  7. フォーカスレンズを駆動する
  8. 再測定し、許容範囲なら合焦、外れていれば処理を続ける

AF領域の選択から測距、レンズ駆動、再測定、合焦または追従までの処理フロー

AF-S(シングルAF)なら、合焦判定後にフォーカス位置を固定するのが基本です。AF-C(コンティニュアスAF)では、被写体が動く前提で測定と駆動を続けます。富士フイルムのAF解説では、AF-S、AF-Cと、シングルポイント、ゾーン、ワイド/トラッキングを分けて説明しています。つまり「どの範囲を見るか」と「いつまで追うか」は別の設定です。

位相差AFは二つの像のずれから移動方向を求める

位相差AFでは、撮影レンズの射出瞳(レンズ後方から見える光束の出口)の異なる領域を通った光から、左右一組に相当する信号を作ります。専用AFセンサーを使う一眼レフと、撮像センサー上で検出する像面位相差AFでは構造が異なりますが、「二つの像のずれを見る」という基本は共通しています。

CanonのDual Pixel CMOS AF解説では、各画素に二つのフォトダイオードを持たせ、撮像と位相差検出の両方に使う構造が説明されています。二つの信号のずれを十分な信頼度で測れれば、ピントが手前側と奥側のどちらへ外れているか、どの程度外れているかを推定できます。

一般化すると、処理は次のように進みます。

1. 左右に対応する信号を取り出す

選択したROIから、レンズの異なる瞳領域を通った光に対応する信号を二組作ります。像面位相差AFの画素構造はメーカーやセンサーによって異なり、すべてがDual Pixel方式ではありません。

2. 対応を取りやすい特徴を抽出する

大きくぼけた像や暗所の信号は、そのままでは位置合わせが不安定です。エッジ強調、平滑化、マルチスケール処理などで、左右の信号に共通して現れる特徴を探します。

Jangらの位相差AF研究では、左右位相画像を作り、DoG(Difference of Gaussian:ぼかし量の異なる画像の差)などで特徴を抽出した後、位相相関で二画像の移動量を推定しています。これは公開された一手法であり、市販カメラの共通実装ではありません。ただし、位相差AFでも「光学的に二つへ分ければ計算完了」ではなく、特徴抽出と対応付けが必要だと分かります。

3. 像のずれをレンズ駆動量へ変換する

左右信号の相関が最大になるずれ量を求めると、像がどちらへどれだけ離れているか分かります。カメラはその値を、レンズの種類、現在のフォーカス位置、光学系の校正情報などを使って目標レンズ位置へ変換します。

位相差AFの利点は、現在位置の測定から移動方向を得られることです。コントラストAFのように、最初にレンズを少し動かして評価値が増えたか確かめなくても、大きな移動の方向を決められます。

4. 信頼度を確認して再測定する

計算結果が出ても、そのまま撮影できるとは限りません。信号が弱い、左右像の対応が曖昧、駆動後も誤差が残る、といった場合があるためです。レンズを動かした後に再測定し、許容誤差内へ入ったことを確認します。

コントラストAFは「評価値の山」を探す

ピントが外れると細かな模様や輪郭がぼけ、高い空間周波数成分が減ります。コントラストAFはこの性質を使い、ROI内の鮮鋭度を数値化します。

公開研究で使われる代表的な評価方法には、次のようなものがあります。

  • 隣接画素の明るさの差を足し合わせる画像勾配
  • 輪郭の急な変化に反応するラプラシアン
  • DCT(離散コサイン変換)などで得た高周波成分のエネルギー
  • ROI内の輝度分散や統計量

たとえば画像勾配なら、横方向と縦方向の輝度差が大きいほど「輪郭がはっきりしている」と評価できます。ただし、細かなノイズも高周波成分を持つため、評価値が高ければ必ず正しく合焦しているとは限りません。実際の処理では、平滑化、ノイズ推定、閾値処理、複数指標の組み合わせなどが必要になります。

XuらのコントラストAF研究は、パッシブAFをROI選択、鮮鋭度測定、ピーク探索の三要素に分けています。低照度ではノイズによる偽ピークが生じやすいため、ノイズ低減と評価式の工夫が必要だと報告しています。

レンズを動かさないと方向が分からない

コントラストAFの評価値は「今の位置がどれくらい鮮明か」を示しますが、通常はピークが手前と奥のどちらにあるかを一回の測定だけでは決められません。そのため、レンズを試しに動かして評価値の変化を調べます。

代表的な探索は山登り法です。

  1. 現在位置で評価値を測る
  2. レンズを一定量動かす
  3. 評価値が上がれば同じ方向へ進む
  4. 下がれば方向を戻す、または移動幅を小さくする
  5. ピーク近傍で細かく測り、停止する

レンズが合焦点を通り過ぎて戻る「ウォブリング」が見えることがあるのは、この探索が外から観察できるためです。実際の機種では全域を単純走査するのではなく、過去の測定、レンズ特性、探索範囲の制限などで移動回数を減らします。

位相差AFとコントラストAFの違い

位相差AFの像ずれ推定とコントラストAFの鮮鋭度ピーク探索の比較

比較軸 位相差AF コントラストAF
主な入力 左右・二系統の像信号 ROI内の撮像信号
基本的な推定 像のずれから方向と量を求める 鮮鋭度評価値の最大位置を探す
初回測定で方向が分かるか 信頼できる位相差を得られれば分かる 通常は試しに動かして比較する
得意な動作 大きなピントずれを素早く詰める 撮像面上の評価値を使ってピークを探す
主な弱点 弱い信号、模様の向き、繰り返し模様、校正誤差 探索時間、低コントラスト、ノイズによる偽ピーク
追加条件 対応するAF画素・光学系・校正が必要 評価中に撮像とレンズ移動が必要

「位相差は速く、コントラストは正確」とだけ覚えると、現在のカメラを説明しきれません。センサー構造、読み出し速度、レンズ駆動、低照度処理によって結果は変わります。Canonの公開例のように、位相差で大きく近づけ、コントラストで最終調整するハイブリッド構成もあります。一方、位相差だけで最終合焦まで行う構成もあるため、すべてのカメラが同じ順番で二方式を使うわけではありません。

AF-Cでは未来のレンズ位置を予測する

動く被写体では、測定時点の距離へレンズを動かすだけでは遅れます。センサー読み出し、演算、レンズ通信、モーター駆動には時間がかかり、その間にも被写体は移動するからです。

AF-Cでは、直近の測距結果を時系列として持ち、距離の変化速度や方向を推定します。一般化した処理は次のようになります。

  1. 同じ被写体に対応するROIを次フレームへ引き継ぐ
  2. フレームごとのデフォーカス量と信頼度を記録する
  3. 外れ値を除き、被写体の接近・離反を推定する
  4. シャッターが切れる時点または次の測定時点の位置を予測する
  5. レンズの応答遅れを見込んで先に駆動する
  6. 新しい測定値で予測を修正する

OM SYSTEMの開発者インタビューでも、センサーが出す位相差情報を受け、連写中のデータから被写体の移動を予測して次のフォーカス位置を決めると説明されています。具体的な予測式や制御則は製品固有ですが、AF-Cが測距と予測を繰り返す閉ループ制御である点は共通しています。

AFが迷う理由を信号処理から考える

AFが迷いやすい場面には、測距に必要な情報が不足しているか、複数の対応候補が成立するという共通点があります。

場面 信号処理上の問題 起こりやすい動作
無地の壁、霧、低コントラスト エッジや高周波成分が少ない コントラスト評価曲線が平坦になる
暗所 信号対雑音比が低い 位相対応が不安定、偽のコントラストピークが生じる
細かな繰り返し模様 似た位置合わせ候補が複数ある 位相差の対応を誤る、信頼度が下がる
AF検出方向と同じ向きの単調な線 検出方向に有効な明暗変化が少ない 位相差を測れないことがある
被写体の前を別の物体が横切る ROI内の対象が入れ替わる 手前の物体へピントが移る
高速で近づく被写体 測定から駆動までに距離が変わる 合焦位置が後追いになる

絞りを変えたときの被写界深度とピントの見え方は「F値とは?写真撮影の3大要素を解説」で扱っています。AFの測距精度と、撮影画像で許容できるピント範囲は同じ概念ではありません。

ルールベースAFとAI AFは何が違うのか

AI以前のAFでも、自動処理は行われていました。ユーザーが選んだAF点を使う、ゾーン内の候補を規則に従って評価する、前フレームから位置・色・明るさの近い領域を追う、信頼度が低ければ別の測距点へ切り替える、といった処理です。採用される規則は機種ごとに異なりますが、設計者が定めた特徴量、条件分岐、閾値、予測モデルを組み合わせる点ではルールベース処理として考えられます。

AIを用いたAFで大きく変わるのは、主に「どこへ合わせるか」と「同じ対象をどう見失わないか」です。人物、瞳、鳥、車、列車などを画像の意味として認識し、被写体内の優先部位をROIへ渡します。

一方、選ばれたROIで位相差を測る、レンズを駆動する、再測定して合焦判定するという物理的な制御は残ります。AIがAF全体を一つのブラックボックスとして置き換える、と考えるのは正確ではありません。

OM SYSTEMの公開例では、ディープラーニングで車両や運転者のヘルメットを検出し、被写体ごとにAFポイントを選ぶ役割が説明されています。Canon EOS R1の技術解説では、被写体の取得だけでなく、形・色・明るさが変わる追跡処理にも深層学習を広げた例が示されています。

この切り分けを押さえると、AI AFは従来AFと別物ではなく、従来の測距・制御ループへ、意味を理解する領域選択と追跡を追加したものとして読めます。

まとめ

カメラのAFは、単に「コントラストが最大になる場所を探す機能」でも、「位相差から距離を一度計算する機能」でもありません。

  • AF領域を選ぶ
  • 位相差や鮮鋭度からピントずれを測る
  • 結果の信頼度を判定する
  • レンズを駆動して再測定する
  • 動体では未来位置を予測して追従する

この処理が連続して初めて、撮影者が見る「素早く迷わないAF」になります。

次の記事では、この土台の上でAIが被写体と部位をどう認識し、遮蔽や交差があっても同じ対象を追い続けるのかを掘り下げます。

参考資料

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